肉のヤマ牛の事業を始めたのは2020年4月です。まだトリドールホールディングスBT(ビジネストランスフォーメーション)本部にDX推進室が設置される前です。その頃、店舗でお客様の注文をPOSレジで打つと、テイクアウトの伝票とイートインの伝票が同じプリンターから出てくるシステムでした。焼肉丼を作るスタッフに紙の伝票を持って行ったりしていたので、お客様に商品が届くまで短くて10分、長いと20分もかかっていました。伝票が紛失することもあり、商品提供までに時間を要することが多数起きていました。お客様にとっても、従業員にとっても伝票がストレスになっていたので、「とにかく紙の伝票は止めたい」という話になったのです。
執行役員CIO/CTOの磯村さんが、2020年10月にトリドールホールディングスのIT本部をBT本部に改組し、その下にDX推進室を設置して、DXを加速させました。その後、2021年1月に「ITロードマップ」をブラッシュアップして「DXビジョン2022」を発表しました。私は、いち早く業務にSNSを取り入れるなどIT化を推進してきた立場なので、理想的な形になって、大変ありがたかったです。それまで業務基幹システムがつながっていなかったので、店舗と店舗がバラバラで、店長によってもIT化の指導が違っていることがありました。私は新業態を立ち上げながら、さまざまな業務を担当していたので、DXの推進によって新業態の立ち上げに専念できるようになったのです。
コロナ禍もデジタル化の波を後押ししました。コロナ禍は会社にも日本にもダメージを与えましたが、コロナがデジタル化を促進し、社内でもDXを促進しましたので、それによって予想よりも2、3年早くデジタルシフトができたのではないか、と思っています。もしも、前のままのIT環境だと今の肉のヤマ牛はなく、現在のオペレーションも実現していないと思います。現在、テイクアウト、イートイン、モバイルオーダー、デリバリーと4つのオーダーの窓口があります。DX推進がなかったら、4パターンのお客様の需要に対して、われわれ供給側が機能不足で対応できていなかったでしょう。
かつては店舗で伝票整理の方法を従業員に教え、伝票を紛失した際のトラブル対応まで教えてきました。今後の多店舗展開を考えたときに、伝票がなくなったことで従業員のトレーニング時間が圧倒的に短くなる。これは明らかだと思います。また、これまで店舗で紙を印刷して行っていた業務も全部QRコードをスキャンし、電子帳票を利用して行っています。例えば、従業員の入店時チェックや定時チェックなどです。入力されたものをチェックするほうは、スマホで登録状況を見るだけです。過去のデータもいつでも取り出すことができますから、記録に関しては、断然デジタルでなければならないと思います。
DXは、人件費削減のメリットで語られる傾向がありますが、本来外食産業に求められているところに、集中するために使うべきだと考えています。お客様からオーダーを取ることよりも、オーダーを取る前にお勧めの商品の説明をしたり、カルビ丼に温麺が添えられていたら、温麺のスープの出汁は何で取っているかについて、説明する。そういう接遇の時間にかけられたら一番いいかな、と思います。「DX推進は、何のためにやっているの?」という店舗の従業員の疑問に対しては、手づくり、できたての料理を作るための調理時間をより多く作るため、お客様に安心な食の場を提供するためにデータ化していくんだよと、理解してもらっています。すると、従業員もどんどんポジティブになっていく。結果的に、DX推進で生産量が上がりました。従業員が作る焼肉丼、お惣菜の数が増えた。調理にかける時間が増えたからです。収益も大きく向上しました。我々が一番改善できた点だと思います。
現在の肉の肉のヤマ牛の店舗数はトリドールホールディングス全体では中位の規模です。今後、肉のヤマ牛を多店舗展開する目標があり、この出店計画を機に、新しいグローサラントを構想しています。欧米では食品スーパーとレストランの融合体をグローサラントと呼んでいます。食材を売る一方で、売り場でお惣菜も作って販売する。臨場感があって、店内ですぐに食べることもできる新ビジネスです。グローサラントの日本版を肉のヤマ牛で手がけたいと思っています。現在日本には全国各地にシャッター商店街がたくさんあります。そういうところにグローサラントを出店して収益を出せるモデルを作り、街の賑わいを取り戻したい。まずは、東京か関東圏のシャッター商店街で実績を作り、DXを推進しながら成功モデルの確度を上げていく。これが、肉のヤマ牛の当面の目標です。