私のいるBT(ビジネストランスフォーメーション)本部DX推進室では、トリドールグループ各社で行う業務のあるべき姿はどういうものなのかを徹底的に考え、その描いたあるべき姿へと業務を変えていくというDXプロジェクトを主導しています。
2019年9月に、 CIO(最高情報責任者)兼BT本部長として磯村執行役員が着任してから3か月で2022年度までのITロードマップを作ったのですが、この前後が一番忙しかったですね。内容が盛りだくさんで、この量を今から2~3年で実現するというのは、前例をあまり聞きませんでしたし、社内からも本当に実現できるのかという疑問の声が結構でました。しかし、次の3か月でデータセンターを廃止し、AWS(アマゾン ウェブ サービス)に全面移行をしました。さらに並行して財務会計システムを世界各国の通貨に対応できるクラウドのシステムに切り替え、国によって利用ができない状態となっていたコミュニケーションツールも全世界共通で利用できるものへ切り替えるなど、業務インパクトの大きいところに同時に手をつけました。
これらが改革の「フェーズ1」です。「フェーズ2」がオンプレミスの業務システムをSaaSシステムへ移行、バックオフィス業務のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)への移行が中心でした。
以前は社内でIT部門に対する不満が充満していて、誰に聞いても「動きが遅い、なかなか対応してくれない」という声が多く挙がってくる状態でした。その中でプロジェクトを進めていくにあたり、とにかくコミュニケーションをとることを心がけました。各業務部門と一緒に取り組むことで、IT部門だけではなく、みんなで進めるものだということを理解してもらえるようにしたのです。BT本部が2020年10月に発足し、「フェーズ1」、「フェーズ2」と進んでいくと、各所で業務が目に見えて変わっていくのを感じてもらえるようになりました。やがて、社内の空気も変わり、 IT 部門が何とかしてくれるのかもしれない、課題について一緒に考えてくれるんだろうな、一緒に進めてくれるんだろうな、という認識を徐々に持っていただけたように感じました。
ただし、出てきた不満や、現場レベルでの個別の要望を全て聞いても現状のシステムの改善、個別最適になってしまいます。そうなってしまわないようトリドールグループ各社で、業務はどうあるべきなのか、どのように進めていくのかという、経営層とのディスカッションをかなり密に重ねてきました。全体の、そして将来にわたってのベストは何かを考え抜きました。
磯村CIOとは、もちろん毎日協議を重ねていました。最初の頃は朝9時から夕方6時まで隙間なく連日ITベンダーとの打ち合わせがあり、その合間を縫っての協議だったこともあり、たとえば「あの件はどうなっているかな?」と言われても、対象の件数が多すぎて「えーっと、どの件でしたか?」と混乱状態にありましたね。
各プロジェクトを推進していくにあたっては単にSaaS、DaaSを導入するだけでなく、机上で想定していない課題の抽出、そして現場への定着を行うため、直接導入現場に行き実際に業務にあたることもありました。私もクラウドPOSのレジ導入に伴い、店で1週間ほどレジに立ちました。そうしないと、どこが問題なのか、全店展開する際の課題が分かりませんから。
今思えば、この「現場の業務を誰よりも詳しく知る」という点がDX推進のポイントだったかもしれません。そのように現場に出向いて一緒に仕事をすることで、現場から直接業務に関する提案や相談も受けるようになりました。そうした関係性の構築がDX推進の成否を決める要素かもしれませんね。
当社グループではいま最初に作ったITロードマップを引き継ぐかたちで「DXビジョン2022」を掲げて、DXを推進しています。現在はその最終段階「フェーズ3」にあります。「フェーズ3」ではすべてのシステムがSaaSを利用したものとなり、レガシーシステムを廃止することで完成します。進捗率はおおむね予定通りです。
そして当社は「真のグローバルフードカンパニー」を目指して、新たに歩を進めようとしています。しかし、ステージが変わり、やることの規模が違ってきても、私たちの基本は変わりません。それは、お店のスタッフが「お客様に感動体験を提供する」というサービスに集中できるよう下支えをするITツールを用意すること。そのことに注力することだと考えています。ステージが変わっても我々はその基本を実現することに集中し、そして「予測不能な進化」もそこから生まれると思っています。