「将来を見据え2000店舗が同時に利用しても問題がないクラウドサービスにしてほしい」。そんな依頼が、トリドールホールディングス(以下、トリドールHD)から東計電算にもたらされたのは2020年初めのことでした。これまでのノウハウだけでは構築できない。チャレンジが必要でした。トリドールHD側も貴重な情報を提供するなど、両社で試行錯誤を重ねた共創のドラマを、東計電算の営業担当者、外食システム営業部営業課長 桑原様に聞きました。
――トリドールHDから「FOOD-LINK R3.0」導入のお話があったのはいつごろですか?またどういう内容でしたか?
桑原 2020年になって間もない頃、磯村康典BT本部長から依頼をいただきました。内容としては、「国内1000店舗超の店舗からの発注業務を円滑に行うだけでなく、将来的を見据え、倍の2000店舗の店が同時に発注業務をしても問題が生じないクラウドサービスにしてほしい」というお話でした。食材の発注は締めの時刻が決まっていますから、短時間に集中する。しかも多くの食材をご利用されているので、必要なものを探すプロセスも含めて、相応のスピードが求められます。レスポンスなど高い性能をキープするには、既存のクラウドサービスでは難しいと思いました。
――どんな工夫をされたのでしょうか?
桑原 まず仮想サーバーの選定からでした。当社では最初Databaseサーバーは1台で行うことを想定していたのですが、磯村本部長や海老DX推進室室長のご経験よりアドバイスをいただいて検討を重ねたところ、複数台による分散処理をするのがもっとも安全かつ安定したサービスを提供できるという結論に至りました。仮想サーバーもそれに適したものを選定いたしました。
次にAWS(Amazon Web Services)の導入です。個別システムにてお客様のご相談を受け使用したことはありましたが、FOOD-LINKサービス(SaaS)では初めての利用で、私たちにとっては画期的な試みでした。といいますのも、弊社は自前のデータセンターを保有しており、センター内で用意した仮想サーバーで運用するというのが原則になっています。ですからAWSを使うのはNGではありませんが、ファーストチョイスには絶対になりえなかったのです。
ただ、今回のお話は外食業界トップを走るトリドールHD様からいただいた大きなプロジェクトです。将来2000店舗となるという事業計画を当社の役員や代表に説明しまして、それに対応するためには我々がもつクラウドサービスだけでは難しいということ、そして今後、当社が本当の意味での外食業界向けクラウドサービス構築を目指すうえでも、AWSの導入は貴重な一歩になるはずだということを伝えました。そのうえで役員の承認をとったという経緯がございました。
賛否両論はありましたが、私が所属する外食システムの専門チームのエンジニアは、新しいことに挑戦できるワクワク感もあって前向きでした。しかしコストを考えるセクションからは厳しい反応がありました。結果コスト面に関しては、読み通り厳しい結果でしたね。スペックを上げるために大きなコストがかかったからです。でも、それについて正直にお話したところ、磯村CIOは理解してくださり、「どういうところを改良すればいいかということを一緒に考えましょう」という言葉をかけていただきました。その一言は非常に大きかったですね。
お恥ずかしい話ですが、私たちはクライアント様の業務に合った正しい AWS の使い方に関しては熟知していないレベルでした。このプロジェクトに関わる当社の主要なエンジニア5人は、頻繁に磯村CIOや海老室長と会い、それぞれのご経験から、こういう使い方がいいよというアドバイスをたくさんいただきました。それはコスト面の見直し、開発に繋げるうえでたいへん貴重な体験でした。
――すぐにレスポンスのいいシステムはできたのでしょうか?
桑原 なかなかうまくいかなかったです。当初は2021年夏までには完成させる予定だったのですが、負荷テストでいい結果がでませんでした。サーバーの構成を含め、いろいろと考えましたが、夏の段階でも500店舗レベルでも遅延が起きる状況でした。磯村CIO、海老室長のお二人にチェックをしていただき、改良を重ねていきました。
解決の決め手になったのは「マスターの集約」でした。従来のシステムでは、たとえていえば、食材別に個別の部屋をつくって細かく構成するような方法をとっていましたが、それでは一気に発注がくると素早い対応ができない。そこで部屋の壁をぶち抜いて部屋の数を減らすというイメージで改善を図ったのです。感覚として8割は減らした。そうすることでスピードアップできたのです。
これは当社が20年間クラウドサービスでやってきた経験とは真逆の発想なのですが、トリドールHD様のアドバイスを受けて何度も改良しました。その結果、改良前の倍以上の速さで処理できるようになり、2022年1月、実用化にこぎ着けることができました。振り返ると、まさにクライアント様と一緒に作ったシステム、という実感があります。
トリドールHD様に「FOOD-LINK R3.0」をご利用いただき始めてから10か月以上が経ちます。事故なく止まることもなく動いておりますし、レスポンスもかなり速いという評価をいただいております。
今回、トリドールHD様と共同でシステムを創り上げたことにより、当社が今後外食業界に本当の意味でのクラウドサービスを展開していくための、貴重な経験をさせていただけたと感謝しています。