トリドールホールディングズ(以下、トリドールHD)のDXは2019年12月に作成されたITロードマップから始まり、「DXビジョン2022」で本格化しました。「DXビジョン2022」はひとことで言えば、レガシーシステムを廃止するための計画でした。「DXビジョン2022」に続く計画は、「DXビジョン2028」です。「食の感動体験を探求し続けて、真のグローバルフードカンパニーになるトランスフォーメーション」として、8本の柱から構成しています。
DXビジョン2028 |
食の感動体験を探求し続け、 真のグローバルフードカンパニーになるためのトランスフォーメーション |
1.デジタルマーケティングプラットフォームの構築 |
2.AI需要予測を活用した店舗マネジメント業務の自動化 |
3.人材のリスキリング、多様性のための教育マネジメントシステムの構築 |
4.IoTを活用したエネルギーマネジメントシステムの構築 |
5.店舗マネジメントプラットフォームの深化とグループ展開 |
6.財務会計・連結会計プラットフォームのグループ展開 |
7.データマネジメントプラットフォームの深化とグループ展開 |
8.CO2排出量を可視化するカーボンマネジメントシステムの構築 |
トリドールHDの「DXビジョン2022」は、フェーズ1のデータセンターのクラウドへの移行に始まり、フェーズ2のオンプレミス業務システムのSaaSへの移行、バックオフィスのBPO移行、VPNネットワークの廃止、ゼロトラストの導入、というプロセスで進んでいます。
これらのDXは全て、手間暇かけて「できたての食」を提供し、お客様に「食の感動体験」を味わってもらうためです。
これまで店舗では、店舗マネジメント作業に多くの時間を割かれ、本来優先すべきお客様と向き合う時間が限られていました。DXを推進することにより作業負担を軽減し、空いた時間を使って、より密度の濃い「人のぬくもり」を感じられるような接客に充てることができます。いわば、本来の飲食店のあるべき姿。その姿を守り通すために、DXを徹底して進めてまいりました。
DXビジョン2028の第1の柱、「デジタルマーケティングプラットフォームの構築」とは、デジタルによる集客対策です。まず、SaaSシステムのYextを使って最新の店舗情報などをGoogle、Instagramといった大手のパブリッシャーに配信します。他に共通ポイント会員、たとえばdポイントなどの会員向けにキャンペーンなどの情報を発信します。自社オウンドサイトはコンテンツ管理プラットフォーム上に移し、新規出店、季節メニュー紹介、最新情報などにリアルタイムで対応し、網の目のように張り巡らされた情報網でお客様を集めます。
お客様の注文や支払いですが、POSはすでにクラウド化され、キャッシュレス決済を前提に電子マネー、クレジットカードなどのあらゆる支払い方式は1台の端末で済み、現金対応には高速自動釣銭機が対応します。
つぎに、第2の柱「店舗マネジメント業務」の自動化です。AIによる店舗ごとの需要予測は年々性能が高まっています。これを基にお店の食材発注業務は自動的に行われ、従業員のシフト表も自動生成されます。
従業員の勤怠は顔認証システムで処理され、食材はレシピ管理システムで必要量が打ち出され、商品規格管理システムによって食材規格を確保、デジタルフードセーフティで食の安全が守られます。売上、食材原価、人件費はFLマネジメントプラットフォームで自動処理され、データマネジメントプラットフォームに集約されます。
コロナ禍によって中食やフードデリバリーが普及しましたが、注文はモバイルオーダー導入で対応、デリバリーはデリバリー注文アグリゲーション、デリバリー情報連携システムで様々なデリバリー会社経由に対応、店内の注文を含めて1台の端末で処理していきます。こうして従業員のやるべきことは、オープンキッチンで料理をすること、できあがったらスピーディにお客様に提供すること、そしてぬくもりのある接客に徹することになり、お客様にとって究極の「食の感動体験」を提供できるようになるのです。
つまり、見事にDXされた店舗も最後は人の手がお店の趨勢を決めます。またどんな優れたシステムにも最後は人の手が必要です。トリドールHDはグローバル展開を目指しますが、いま世界的に、人手が不足しています。こうした人材のリスキリング、また多様性のための教育マネジメントシステムも構築していきます。これが第3の柱で、すでに稼働している採用システムに加えて、LMS365などによる教育システムの導入も行う予定で、おもてなしを担う店舗の人材、それを支えるデジタル人材を確保、育成していきます。
さて、AIによる店舗の需要予測は、新たな活動にも役立ちます。それが第4の柱「IoTを活用したエネルギーマネジメントシステム」の構築です。AI需要予測によって、店舗の厨房機器、空調、照明器具の稼働をコントロールするのです。たとえば、丸亀製麺では釜でお湯を沸かすため、大量の水と電力を使います。一日中、同じ電力でお湯を沸かしていたら、エネルギーの無駄使いですから需要変動に合わせて、繁忙時間帯、アイドルタイムと波を作るわけです。しかも各機器はIoTでデジタル制御されますから、需要予測に合わせて店舗の人手を煩わせることなく自動で行われます。コスト削減、CO2削減はもちろん火災のリスクも軽減されます。コロナが流行り出した2020年春の時点で現金決済しかできなかったお店は、こうしてまったく別世界の姿となるのです。
トリドールHDは「真のグローバルフードカンパニー」を目指しますが、DXビジョン2028は最終的にはそのための計画と言っていいでしょう。
「食の感動」は人類共通のものです。国境を越え、人種を超えて共通のはずです。人がいればその数だけの「食の感動」があると言えます。
これまで述べてきたように、DXによる多くのデジタルプラットフォームが重なり合って、トリドールHDのビジネスプラットフォームを形成しています。これを日本だけでなく、世界各国に同時展開していくわけです。
第5~7の柱は、店舗マネジメントプラットフォーム、財務会計・連結会計プラットフォーム、データマネジメントプラットフォーム、のこれらを世界のグループ会社に同時展開することです。店舗マネジメントプラットフォームは先に述べました。財務会計・連結会計プラットフォームは世界各国共通になりますから国際会計基準に則り、同じようにグループ展開します。データマネジメントプラットフォームでは、例えば、店舗での売上など経営上のデータは国内ではすでに店舗単位、会社全体で収集、分析されますから、最新の売上情報などはトランザクションマネジメントにユーザー、商品、店舗単位で集約され、分析ツールのSaaSによって分析されるシステムをさらに深化させ世界のグループに展開します。
これらのシステムを基盤にして、世界各地で「食の感動体験」に共感し、それに関する特別な知識やノウハウ、ネットワークをもつパートナー、つまり「世界の仲間(バディ)」と手を組みます。そしてこれらの食の感動体験を多様なあり方で体現するブランド群、それらは「ダイバースブランド」と呼ばれ、世界各国に展開していきます。単にビジネス的に発展するだけでなく、ハラル、ヴィーガンといった食文化など、新たなシーンでも感動体験を創出し続けていきます。
そして「世界のバディ」は第2のヘッドクオーターの役割を果たし、単に単体業態の展開を進めるのでなく、複数業態を同時並行で進めていきます。すでに提携している世界のバディは欧州が「cap desia」、米国が「Hargett Hunter」、アジアは「EN GROUP」です。
そして、複数業態を世界各国で同時多発的に展開する、すなわち「n×n」展開を行っていけば、これはかつてない予測不能な進化につながる、と信じています。
しかし、売上を上げるだけが目的ではありません。DXビジョン2028が掲げるのは、「カーボンゼロ」を目指すための「カーボンマネジメントシステムの構築」です。これが残る第8の柱です。
トリドールHDは以前からESGマテリアリティに「地球とともに」を掲げ、資源循環の推進に努力してきました。すでに述べた通り、ゆで麺のロスを削減するためシステム導入店舗を増やすほか、エネルギー節約のための電気使用量を自動制御するシステムも導入予定で、これらを世界中で行う方針です。
壮大な目標に向かって、これまでDXによってもたらされた体制を十二分に生かし、予想不能な進化をしっかり支えていきたいと考えています。