トリドールホールディングスのDXは、2021年1月策定・公開した「DXビジョン2022」によって進めてきました。テーマごとにいくつかのプロジェクトを決め、さらに細かい個別の作業はサブプロジェクトとして位置づけ、それぞれの進捗率を定期的に割り出し、誰が見ても現時点でDXがどの程度進んでいるかが分かるようにしています。
基本的な推進の考え方は、①業務システムはすべてSaaS、②端末はすべてDaaS、③バックオフィス定型業務はすべてアウトソーシング、④情報セキュリティはゼロトラストセキュリティの観点で対応、の4点です。
また、導入したSaaS間ではデータの円滑な連携を行うため、次の3点を必須としています。①シングルサインオン、②ユーザー、商品、店舗マスタデータの配布、共有機能、③取引データの出力機能に対応。
以下、詳しく推進の実態を説明します。
2022年8月時点で、すべてのサブプロジェクトが進捗率100%なのはバックオフィスのBPO(business process outsourcing)移行です。これは現場の店舗を支えるバックオフィスの定型業務部分をすべて社外の専門業者に切り替えるものです。具体的には経理財務、人事給与、IT運用、などをアウトソーシングしたわけです。これがいち早くできたのは、トリドールグループをホールディングス(持ち株会社)と事業会社に分け、さらに持ち株会社を文字通りの持ち株会社とバックオフィス部門のシェアードサービス会社に分けたからです。つまりシェアードサービス会社の機能をそっくりそのまま社外のBPOベンダーにお任せしたのです。
バックオフィス業務が高成長のボトルネックとならないようにするために、ビジネス規模の増加に伴い、業量が増加するルーチン業務をBPOへ集約していきます。
BPOセンター | 委託先 |
人事・給与・採用業務 | |
人事サポートセンター | トランスコスモス 大阪本町 |
給与サポートセンター | JOE(三井住友銀行グループ) |
PS採用センター | 株式会社TSC(SRCとトリドールの合弁) |
経理・財務業務 | |
経理財務センター | トランスコスモス 長崎 |
デジタルBPOセンター | ビーウイズ(AI-OCR×BPO) |
オフィスサポート業務 | |
オフィスITサポート | トランスコスモス 渋谷オンサイト |
庶務業務 | マンパワーグループ 渋谷オンサイト |
マルチサイトコンタクトセンター | |
カスタマーサービスセンター | トランスコスモス 横浜 |
インフォメーションセンター | トランスコスモス 神戸 |
店舗サポート業務 | |
店舗事務支援センター | トランスコスモス 神戸 |
店舗ITヘルプデスク | ガルフネット ITアウトソーシング |
店舗展開業務 | ガルフネット ITアウトソーシング |
IT統制業務 | |
システム運用センター | NECネッツエスアイ |
ユーザーアカウントセンター | KDDIエボルバ |
商品マスタ入力センター | 東計電算 立川事業所 |
まず本社側が手本を見せる形でDXはスタートしたわけですが、変革は「食の感動」を伝える現場の店舗の業務改革が「本丸」です。「店舗マネジメントプラットフォーム」プロジェクトで進捗率100%なのはFLマネジメントプラットフォームです。これは売上(Sales)、食材仕入れ(Food Cost)、人件費(Labor Cost)を一括管理でき、単なる1店舗の効率化にとどまらず、今後トリドールグループが本格的にグローバル展開する際に、重要なビジネス基盤となるものです。
また、店舗の受発注システムも100%近く進んでおり、食品の安全性を確保するためにデジタルフードセーフティ(TSR)を導入。これは食材の温度管理、調理手順、厨房環境などを管理できるシステムです。2022年度内には丸亀製麺全店舗で導入予定です。また店舗の食材発注は店長の勘に頼りがちですが、これを自動算出するシステム、さらに店長の負担になっている従業員シフト表の自動作成システムなども導入予定です。
店舗のレジ処理、また売上処理は、重要ですが、人手や時間を取られがち。そこでいち早く、クラウドPOS、キャッシュレス決済の導入を行いました(進捗率100%)。さらに配備の本格化は22年度後半になるものの、オールインワン決済端末「stera」を導入予定。これはあらゆる電子マネー、クレジットカード、QRコード決済、各種優待券、クーポン券などに1台の端末で対応可能にするものです。POS連動で操作は不要、同時に高速自動釣銭機も導入予定です。
コロナ禍で盛んになったフードデリバリーですが、顧客の注文はUberEatsや出前館などさまざまなメディアから入ってきます。そこでフードデリバリー情報連携システムの導入で一本化を実現、注文がどこから来ようが、お店は入った注文順に調理できるようになりました。
またリピート客を増やすため、デジタルマーケティングプラットフォームでは、まず自社ブランドアプリを活用し顧客へのクーポン券配布などの販促を実施しています。スマホのキャリアと提携し、共通ポイントを活用するなど、顧客属性、店舗の商圏を把握しつつ、購入履歴に基づく販促ができます。
さらに、デジタルコンテンツ管理プラットフォームにより、個々のウェブサイトやスマホアプリのコンテンツ運用をせずに一元的、効果的な顧客へのリーチが可能となりました。
データマネジメントプラットフォームは会社の心臓部といえるかもしれません。まずユーザープロビジョニングですが、社員の各種SaaSへのログインをシングルサインオンにするもので、「Microsoft Azure Active Directory」により利用できる機能です。組織変更や人事異動に伴う権限変更も逐次人手をかけることなく、一括変更できるようになりました。
次にマスタデータマネジメントでは、ユーザー、商品、店舗に関するマスタデータを共有、配布する機能を持ち、会社の重要データを扱います。トランザクションマネジメントでは、最新の売り上げ、入金明細、売掛金明細、仕入れ、請求書支払い、経費精算などビジネスに伴うすべてのデータが集約されます。それらは人手を介さないデータの照合、検証を経て財務会計システムに反映されます。
すでにデータマネジメントプラットフォームでは、データ分析のSaaS移行が100%進んでおり、領収書や請求書の電子化、オフィスコミュニケーションツールの導入も100%の進捗率です。従って、前の売上、入金明細などのデータはデータ分析ツール「Qlik Sense」などの活用で、新たなビジネス上の知見を得ています。
データ処理、あるいはデータそのものが外食産業特有のため、既製のSaaSでは万全でない場合は、ITベンダーとともに新たに開発する部分もありますが、他社でも使えるノウハウは秘密にすることなく標準機能としてSaaSに取り込んでもらう形にしており、カスタマイズは行っていません。
レシピ管理、食品規格管理は店舗管理システム「FOOD-LINK」、仕入商品規格管理「e-winds」を導入。発注や検品、棚卸などを行っています。また災害や大事故の際に対応できるようBCP(事業継続計画)対策としても、これらのSaaSを活用します。
人材開発におけるDX推進の概要は、次のようになっています。まず採用ですが、正社員は採用管理システム「sonarATS」、パート社員は「Findin」を活用しています。ライブ面接が「harutaka」を利用。採用後は、雇用契約、給与明細等は「SmartHR」で処理。社員名簿、組織図、組織分析はクラウド人材管理システム「HRBrain」を活用、人事評価も可能となっています。さらに研修等はeラーニング「LMS365」によって社員教育を実施し、勤怠管理システム「ジョブカン」によって顔認証で打刻を行う予定です。
こうしてトリドールホールディングスの人材開発は、これらのSaaSの活用で一元管理され、人事担当者の負担を減らすとともに、透明度の高い人事施策も狙いの一つとなっています。
SaaS間で円滑なデータ連携を行うため、①シングルサインオン、②ユーザー・商品・店舗マスタの配布・共有機能、③取引データの出力機能に対応していることを必須としている。
業務 | サービス名 |
デジタル マーケティング対応 POSステーション | NEC モバイル POS(クラウドPOS) |
VITTESE(東芝テック製高速自動釣銭機) | |
stera(キャッシュレス決済) | |
FLマネジメント プラットフォーム | dimare(売上FL管理システム) |
FUJITSU ODMA(AI需要予測SaaS) | |
ジョブカン勤怠管理(顔認証打刻) | |
FOOD-LINK(発注、棚卸) | |
サプライチェーン プラットフォーム | FOOD-LINK(店舗管理システム) |
e-winds(EDI、商品規格書) | |
TSR(Testo Saveris Restaurant) | |
マーケティング プラットフォーム | O:der ToGo(モバイルオーダーシステム) |
valuedesign(ハウス電子マネー) | |
Ordee(デリバリー注文集約) | |
Yext(店舗情報クラウド) | |
Yappli(アプリプラットフォーム) | |
microCMS(Webコンテンツ管理) | |
wovn.io(多言語コンテンツ管理) | |
Office コミュニケーションツール | Microsoft Office365 |
(Teams, SharePoint, OneDrive含む) | |
人材開発プラットフォーム | harutaka(ライブ面接・動画応募) |
sonarATS(社員採用管理システム) | |
Findin(PS採用管理システム) | |
SmartHR(雇用契約・人事システム) | |
HRBrain(人材データベース) | |
LMS365(教育研修) | |
ゼロトラストネットワーク セキュリティ | Microsoft Azure Active Directory |
Microsoft Defender for Endpoint | |
Microsoft Intune | |
Zscaler Internet Access | |
データマネジメント プラットフォーム | Magic xpi |
Amazon Web Service | |
Qlik Sense | |
Oracle NetSuite(財務会計) | |
BlackLine(入金照合、勘定照合、仕訳) | |
ProPlus(資産管理) | |
Comvi.BASE(RFIDタグ物品管理) | |
TOKIUM経費精算 | |
Bill One(請求書電子化) | |
ワークフロー& 契約マネジメント | ジョブカンWF(稟議・支払申請) |
Cloud Sign(電子契約) |
あらゆるネットワーク、すべてのデバイスは信頼できない、との考えのもとに、クラウドをこれだけ活用しているトリドールグループのセキュリティ指針は「ゼロトラストセキュリティ」という方針です。社内ネットワークだから安全、などといった考え方は排除しています。
具体的には、「Microsoft Azure Active Directory」でシングルサインオン、「Microsoft Defender Antivirus及びMicrosoft Defender for Endpoint」でサイバー攻撃対策、端末制限は「Microsoft Intune」、さらにインターネットのアクセス制限は「Zscaler Internet Access」、脅威の検知と緊急対応は「セキュリティオペレーションセンター」(SOC)といった具合です。
それでもネットの安全対策は万全とは考えず、「AIを活用した高度なエンドポイントセキュリティ」を検討しています。これはなにかと言いますと、脅威になりそうな怪しい動きをキヤッチし、脅威となる前に対策を講じるという未然の防衛対策です。
以上がDXで推進してきた既存ビジネスの深化です。このように業務そのものの自動化・不要化、働き方の変革などによって、革新的な生産性の向上を図るとともに、収益面でも成長を目指しています。