外食産業のみならず、あらゆる業界が影響を受けた新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが収束をみせ、私たちトリドールグループも回復を遂げました。そして迎えた2024年3月期は、国内外で展開する20のブランドのコンセプトが固まってきたことにより、より多くのお客さまに対して各ブランドのコンセプトを明確に打ち出すことができたと感じています。
「丸亀製麺」が堅調であったことはもちろんですが、“いちばん近いハワイ”をコンセプトとした「コナズ珈琲」の良さが色濃く打ち出されたことで、丸亀製麺とは違う新たな客層が生まれたのは、その良い例だと思います。さらに2017年にグループに加わった姫路発の豚骨ラーメン店「ラー麺ずんどう屋」は成長期に入り、切り立て牛肉の専門店「肉のヤマ牛」では繁盛店が生まれるなど国内で各業態が好調な動きを見せました。また、海外では2023年7月に子会社化したFulham Shore(英国)、Tam Jai International (香港)などが増収を牽引しました。丸亀製麺・国内その他・海外事業の各セグメントのバランスが取れていき、私たちが目標としている「グローバルフードカンパニー」として前進していくための転換期に入ったと感じる1年でした。
2025年3月期の中間期決算は、丸亀製麺・国内その他・海外事業の全セグメントで中間期最高の売上を達成するも、海外事業の不採算店舗における減損損失などの影響によって、通期では増収減益になる見込みです。
まだまだ紆余曲折はあるとは思いますが、海外事業は国内事業とほぼ同じペース、あるいは抜き去ろうとするほどの勢いで伸びています。その現状を踏まえてトリドールグループでは国内事業にかかわってきた従業員に意図的に海外事業にもかかわってもらい、国内と海外の壁をなくして一体化していくことに力を注いでいます。転換期に差しかかってきたからこそ、働く人たちが実際に国内と海外の両方に触れることで、意識を変えていくことが重要だと考えたからです。
海外事業は海外事業部が担当するというのが一般的なのかもしれませんが、私たちは全員野球で「One Toridoll」になることが必要だと思っています。実際に株式会社丸亀製麺の山口寛社長は、世界中にある「Marugame Udon」の各店舗を回りながら、エリアの壁を取り払い、ひとつのチームをつくる活動をしています。そうした取り組みを徐々に浸透させていくことで、2025年3月期は従業員の「意識改革が進む年」となると感じています。国内よりも海外の店舗数のほうが多いという近未来も現実味を帯びてきている今だからこそ、意図的に一体化させていくことが重要であると考えています。
中食やフードデリバリーの普及や、食材料の高騰、人材不足などにより、外食産業は軒並み省人化に傾倒しました。このような背景から、フードテックの導入などによるDXが脚光を浴びています。私たちもデータセンターのクラウドへの移行やバックオフィスのBPO移行、VPNネットワークの廃止といったDX推進に着手していますが、これらはすべて手間暇かけてできたてを提供し、お客さまに「体験価値=感動体験」を味わっていただくためです。コスト削減になるからといって省人化を図るのは私たちの強みをかえって失うことに他なりません。むしろ変わってはいけない私たちの強みであると理解しています。
そして私たちがお客さまにお届けする「感動体験」をつくっているのは紛れもなく「人」です。これまでは「KANDO」がお客さまの満足度を高め、お店が繁盛する。会社としての成長の源泉は「KANDO」だと捉えてきました。
しかし「KANDO」の手前に働く人たちの「幸せ=ハピネス」がなければ「KANDO」は生まれません。「KANDO」と「ハピネス」は一体であり、働く人の幸せと売上を天秤にかけてどちらかを選ぶというものではありません。つまり「二律両立」であるべきものなのです。
現場の従業員を対象とした私が塾長を務める経営塾「粟田未来塾」や、本社従業員を対象とした少人数で意見や体験を共有し合う「EATING MEETING」などを実施しながら皆さんとの間で「感動体験」を共有していると、会社の利益をあげるために必要なのは、そこで働く人の「想い」や「行動」だと強く実感します。少し抽象的に受け止められるかもしれませんが、働く人たちが仲良くなり、讃え合い、助け合う「チーム」になってくれたら会社を辞める人は減るでしょうし、お店の雰囲気も良くなります。お店の雰囲気が良ければ、お客さまも集まってくれるでしょう。初めの一歩として、自分が働いているお店を「好きな場所」にしていくことが大切であると考え、働く人たちの「ハピネス」にフォーカスした試みに注力していこうと考えました。
たとえば、お店づくり。これまでは、「お客さま視点」で如何に感動体験をお届けするかを重視した店舗のレイアウトや内装を考えてきました。これからは、そこで働く「スタッフの視点」も加えていきます。具体的な例をあげると2024年春に開業した丸亀製麺東根店(山形県)は、スタッフルームがこれまでの倍近くあり、ゆっくりと休憩を取ることができます。まだ始めたばかりの取り組みですが、東根店で働く人からは、非常に好評です。そのようなお店が店舗業績に対して「どのような成果を生み出していくのか」を検証しながら、取り組みを広めていきます。
トリドールグループで働く従業員が距離(地域)やブランド(業態)、役割を超えてつながり、「ハピネス」の実現と「KANDO」への想いを共有する場をつくることで、EX(従業員体験価値)を最大化することを目的とした独自の従業員コミュニケーションアプリを開発しました。
アプリ内で各店舗での「ハピネス」や仲間への感謝をシェアしたりすることができます。アプリへの投稿数などから「ハピネス」と「KANDO」をスコアにして「見える化」することで、たとえば「お店が好きで元気な従業員が集まっているお店は、やはり売上が高い」ということが分析・実証できれば、その結果を従業員に伝えていきたいと思っています。そこに気づく従業員が増えるほど、その他のお店も活気づいていくきっかけになっていくでしょうし、強いては会社の文化になっていくと期待しています。
サステナビリティの領域については、課題と方向性は大きく変わりませんが、「ハピネス」を座標軸の真ん中に置き、そこに照らし合わせながらESGマテリアリティ(重要課題)の見直しを図りました。私たちは食を通じた「感動体験」をお届けしているわけですが、その上で持続的な社会の実現、広義でいえば地球のことを考えていくことは不可欠だといえます。会社はどこかで社会に守られているはずなのに、商売は会社のエゴがあって成り立っているものだと感じています。
自分の会社さえよければ良いというのではなく、社会やお客さまなどさまざまなステークホルダーの皆さまと一緒に歩んでいくべきだと思うのです。そうした考え方や活動をとおして、多くのお客さまにとっての「応援したくなる会社」となれるよう、サステナビリティ領域での活動を増やしていきます。
日本の産業においては、国内にとどまらず海外でも発展し、海外が国内収益を上回る企業が多い産業も少なくありません。そうした成長著しい産業が多い中にあっても、外食産業はとても規模の大きな、今後さらに拡大が見込める産業だと思っています。
外食産業はコロナ禍で一時期は停滞しましたが、30兆円を超える国内市場規模が見込まれ、これ程の産業は多くありません。また500万人以上の雇用を支えている産業でもあり、もっと伸びていく必要がある産業だとも思っています。その一方で、これまで国内だけでも十分な市場があった時期が長く、海外に出ていくタイミングが遅れ、「ガラパゴス化」してしまった産業でもあります。
私たちは勇気を持って海外に出ていき、国内よりも海外で高い収益をあげていくことで、外食産業の新しい道を創りたいと思っています。もちろん日本食はすでに世界でも高く評価されていますが、それは一部のハイエンドな食事が中心です。私は、うどんのような日常的で、誰にでも親しんでいただける食事を世界中に広げていきたい。「いつ、どの国で生まれたのかは知らないけれど、世界中の人たちが“うどん”を食べて喜んでいる」そういう未来を、仲間とともに創りたいのです。
外食とは単に商品を提供するということではなく、「体験」を提供する「レジャー」であると、私は考えています。お客さまがレジャーと感じられているかはさておき、私たちは「レジャー」としての楽しさを日常食の中で提案するべきなのです。華やかで高級な非日常的な食事ではなく、たとえばうどんのような「日常食」の中で提案していきたいと思っています。
宅配サービスやコンビニエンスストアなどさまざまな食事が簡単に手に入る時代に、なぜ服を着替えて、わざわざ外に食べに行くのか。それは外食が「レジャー」であるからに他ならず、「レジャー」でなければ外食する意味はどんどん薄らいでいきます。私たちはわざわざ外出してでも食べに行きたいと思っていただけるお店を作っていくために、さまざまな取り組みを展開しながら、常に成長し続けていく企業を目指していきます。成長とは私たちにとって特別なことではなく、自然なことだと思えるような企業になりたいと考えています。
生産労働人口の減少や少子化など、事業環境は一層厳しくなっていくことが予想されます。そのような中でもトリドールグループにはお客さまも従業員も集まり続ける、従業員にとって自分の居場所と感じられるようなお店づくりを目指していけば、自ずとお客さまにとっても心地よい居場所やサービスの提供につながるはずです。このような居場所づくりには時間がかかるかもしれませんし、困難なことだと理解していますが、必ず実現し「予測不能な進化で未来を拓くグローバルフードカンパニー」となっていきます。
どうぞ、私たちトリドールグループの未来にご期待ください。
株式会社东利多控股
董事长兼首席执行官